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珍妃の井戸

珍妃の井戸
浅田 次郎
珍妃の井戸
定価: ¥ 1,680
販売価格: ¥ 1,680
人気ランキング: 107753位
おすすめ度:
発売日: 1997-12
発売元: 講談社
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皇族殺害事件の真相は「藪の中」
 中国清朝末期を描いた『蒼穹の昴』と『中原の虹』に関連し、2つの小説の中間の時代――義和団の乱の混乱期――に発生した珍妃殺害事件の真相を追求する小説です。

 物語は、西洋かぶれで有名な載沢殿下の舞踏会で幕を開けます。義和団の乱に乗じた8ヶ国連合軍がどれほどひどい掠奪行為を働いたか、その実態を調査する役目を負い、英国からソールスベリー提督が北京に乗り込んできました。
 ソールスベリー提督は、皇帝の妃である珍妃が殺害されたという噂を知り、仲間3人と真相究明をスタートします。
 真相を知る証人を求めて、4人は袁世凱やら珍妃の姉やら、次から次と証言を聞いてまわりますが、同じ証言は全くなく、犯人像も混沌としたままです。

 とうとう最後に、決定的な証言者から話を聞くことになりました。
 その証言者とは誰なのか。そして、最後の証言者が明かす真実とは……。

 物語の背景には、清朝末期の混乱した世相が横たわっていますが、本書は犯人捜しの独立したミステリーとして読むことができます。
 次から次へと証人が出てきて、独白文で証言する。しかし真実は分からない。
 ……どこかで聞いたことのある構成です。

 私が思い当たるのは、黒澤明監督の映画『羅生門』と、その原作である芥川龍之介の『藪の中』です。証人の数が7人というのが、本書と同じ数ですので、間違いないでしょう。

 同じモチーフで全く違う作品を作る、というのは音楽の世界でもよく見られることで(「ハイドンの主題による変奏曲」とか、「パガニーニの主題による変奏曲」が有名です)、決して盗作ではありません。
 小説や映画の世界でも、「7人の○○」や「12人の○○」という作品をよく見かけます。

 本書を一言で解説すれば、
   芥川龍之介『藪の中』の秀逸な本歌取り
と言えるでしょう。

「蒼穹の昴」の続編の一部
 「蒼穹の昴」のレビューでも書いたが、この作品は、多くの謎を残したまま終わっている。その謎の一つ、若き皇帝と珍妃の最後について「蒼穹の昴」の出場人物の多くが登場して、様々な証言を行なう。
 これらの証言は、一致するものもあれば、全く正反対の主張もある。
 結局事実は藪の中になるわけであるが、このように、犯人を明示しない推理小説は、ストレスがたまる。
 こういう結末のつけ方も、新しい方向かもしれないが、「蒼穹の昴」の残された謎を期待した人間にとってはやや不満の残る結末であった。

蒼穹を慮っての珍妃
 ミス・チャンやトムなど、史実とかけ離れた登場人物のため、蒼穹の昴を一読していないと理解や感情の移入に困難をきたすこと必定。本編は、ミステリーと歴史ものの混成で、四人の貴族のインタビュアーや各登場人物の視点で書かれる。蒼穹とは違い、憂国の美妃珍妃の描写には驚かせられた。少々リアリティからの乖離が激しいと思われるが、本編(蒼穹?)の補足書として、後日談を交えながら愉快に通読出来る作品である。娯楽小説として楽しむには自信をもって推挙できる。



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