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五郎治殿御始末 (中公文庫)

五郎治殿御始末 (中公文庫)
浅田 次郎
五郎治殿御始末 (中公文庫)
定価: ¥ 620
販売価格: ¥ 620
人気ランキング: 16212位
おすすめ度:
発売日: 2006-01
発売元: 中央公論新社
発送可能時期: 通常24時間以内に発送

出色
最近の浅田モノでは出色の短編集。
去り行く侍の時代に抗う「武士」の矜持。
「西向く侍」は名作。
是非、人目の無い場所で読まれることを。


武士の時代の終焉
800年續いた武士の時代が終焉を迎へた明治維新。
徳川15代將軍慶喜が大政奉還して政治形態が變はり、スムーズに新しい世の中になつたやうな印象がある。
もちろん、鳥羽伏見から五稜郭に至る舊幕府勢力の抵抗はあつたが、人の生活レベルでの變化に附いてはイメージ出來ていなかつた。

淺田次郎は、6つの短篇で、この間の變化を武士の視點から描いてみせた。
かつての武士たちは、御一新の後、どのやうに生きていつたのか。
商人になつた者、官僚になつた者、軍人になつた者、俥曳きになつた者・・・
それぞれの人生に於て、かつての武士としての生涯はどのやうに投影されてゐるのか。

いずれも趣のある作品だが、なかでも印象に殘つたのは、「遠い砲聲」と表題作「五郎治殿御始末」。

「遠い砲聲」の主人公は、近衞砲兵隊の中隊長として勤めながら、かつての主君に仕へてゐる。
西洋時計の使ひ方になかなか慣れられずに苦勞し、演習では大失態を演じてしまふ。
それでも周圍の彼に對する姿勢は暖かい。
軍人はいづれももと武士であり、かつての主君に仕へる彼の生き樣に好意的なのだ。
そして主君は、彼に對して何もしてやれない自分を情けなく思つてゐる。
最後の花火のシーンは壓卷だ。
武士の心意氣が傳はつてくる。

「五郎治殿御始末」は、武士としての身の始末のつけかたを描いたもの。
孫の養育と家の存續に心を碎いた老武士が選擇した道は・・・
すつきりと背筋の通つた生き方をしてきた人は、周圍がその生きざまを見てゐるものだ。
西南の役をもつて、武士の時代は名實ともに終はつた。

これまで知らなかつたこと。
御三家のひとつ尾張家はいち早く薩長の側についてゐたといふこと。
そして、その當主は會津中將、桑名越中守と實の兄弟だつたといふこと。
つまり、尾張大納言は、血をわけた兄弟である二人と鬪つたわけだ。
幕府側からすれば、武士の風上にも置けぬ裏切り者といふことになる。
もともと尾張は將軍家とは仲が惡かつたとはいへ、よもや、といふ感じがした。



普通の武士にとっての明治維新。
明治維新を迎えた武士の生き様が6つの短編で描かれています。維新の英雄の物語は数多く語られていますが、ここに描かれているのは英雄ではなく普通の武士にとっての明治維新です。維新でそれまで脇差を差し髷を結っていた武士の時代は終わります。その終わり方も劇的で一年一年次々とお触れが出され、右往左往する中で時代が変わってゆきます。ここに描かれている侍は、時代の激変の中で武士道を守り通すと同時に自分自身が時代遅れの存在になったことを自覚し武士道の幕引きをする最後の武士の姿です。新たな時代の幕を開ける人がいれば必ずその影で古い時代の幕を閉じる人達がいます。そこに着目した著者の慧眼と共に自分自身の始末をつける武士の姿に感じ入るばかりでした。



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