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シェエラザード〈下〉 (講談社文庫)
浅田 次郎

定価: ¥ 650
販売価格: ¥ 650
人気ランキング: 138967位
おすすめ度:

発売日: 2002-12
発売元: 講談社
発送可能時期: 通常24時間以内に発送
読後、氷川丸がアトラクションではなく運命の船の生き残りに見えてくる・・・
終戦直前、海上のファム・ファタル(運命の美女)弥勒丸が辿った悲運の物語。読み終えた後に、シェエラザードの曲が聞きたくなり、また弥勒丸事件の土台になっている阿波丸事件について知りたくなりました。
浅田氏の作品を読むのは初めてでしたが、とても引き込まれ一気に読めました。たくさんの人物が現在と過去に交差して出て来ても、こんがらがってしまうことなくすっきり読めます。
フィクションであり史実と異なるところもあるようですが、戦争の残酷さ、簡単に忘却して楽に生きようとすることの罪、戦時下という状況で起きた悲劇が関係者の心にずっと落とし続ける影などのテーマを伝えるのに十分な読み応えがあります。
横浜出身の私には、表立った唯一の生存者である当時若手天才パン職人の中島がとても印象に残ります。最終章の、パン屋へ奉公>ニューグランド勤務>弥勒丸ベーカーとなった彼の語りは泣かせます。
なぜ、名ベーカーでありながら横浜に店を持たなかったのか、途中疑問でしたが、最後には彼が氷川丸や時々来る豪華客船を見ながらパンを焼かない(焼かない)気持ちがわかりました。他の弥勒丸関係者の気持ちと共に・・・。
こういう語りで泣かせるのって浅田作品っぽいんだろうな。
でも、以前のレビューでも書かれている方がいましたが、私も小説の中でのヒロイン(?)律子にはときおりしっくりこないと言うかカチンと来てしまいました。
人が一生のうちに成すべき事とは?
大戦末期の戦争の狂気が感じられました。「一億玉砕」が叫ばれて人の命があまりにも軽んじられていた時代に、人を大切に思える優しい日本人がきっとたくさんいたのでしょう。それぞれ不安定な自分の信念を貫こうと苦しんでいたのだろうと思うと、涙が止まりませんでした。
ストーリー展開は、浅田さん得意の現在と過去が交互に入り混じって進んでいくもので、弥勒丸の謎が気になって一気に読んでしまいました。内容はもちろん過去に重点が置かれていますが、現在の登場人物たちも過去の過ちや現在の生活に悩み苦しみながら生きる様が魅力的でした。登場人物を自分と照らし合わせてしまい、自分にも何か成すべき事があるのではないかと考えさせられました。ほんの些細なことでもいい、それがあって欲しいと、それを見つけたいと強く願います。
時代の変化が激しく、先行き不透明で不安な未来を抱えた現代の私達は、戦時下に不安を抱えて生きていた沢山の人たちと似ているのではないかと思いました。戦争を知らない若いモンが何を言うか、と言う気が自分でもしますが、何が正しくて何が間違っているかが不確定になり、自分の人生や生き方に疑問を感じずにはいられない今の世の中で生きていくのも、それはそれで辛いものですね。戦況を正確に知ることのできなかった民間人や、知っていてもどうしようもなかった日本人達は、誤った方向に進みたくさんの人命を失いました。地球の自然崩壊を知りながらもそのスピードを緩めることさえできない私達は、50年後どうなっているのでしょうか・・・。
戦争という凶器に翻弄される美しき弥勒丸と、”彼女”を愛する船乗りの姿が心に迫ります。
終戦の直前に沈められた豪華客船、弥勒丸の謎。後半に入って、昭和20年と現代の交錯が早まってゆき、組曲「シェエラザード」最終楽章に導かれてゆくような思いで物語が進められます。大日本帝国の狂気とそれに翻弄されながら最後まで弥勒丸という美しき彼女の為に海の男として誇りを貫き通す弥勒丸船乗員たち。戦争という行為が必ず内包している狂気。戦争、それ自体が狂気といえるでしょうか。それに手を染めた人たちも戦争が終わると夢から覚めたように元の居場所に戻ってゆきますが、その狂気によって犯した償いの為に人生を費やしてゆく場合もあるのでしょう。第二次世界大戦で大日本帝国がしでかしてしまったことは何なのか。フィクションであればこそ真実に近づける場合があるように思います。そんなことを考えさせられる作品でした。
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